私たちが分からなかった東北弁
2022年10月21日
日本では地方ごとに「方言(ほうげん)」という独特の言葉があります。その中で東北地方の人たちが話す方言を「東北弁」と呼びます。留学などで東北に住んだベトナム人の先輩たちも、よく聞く言葉なのに最初は意味がまったく分からない言葉がありました。その中でも代表的な言葉を選んでまとめました。
東北地方
東北地方とは、青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島の6県のことをいいます。県によって方言は異なりますが、この記事では、東北弁の中でも比較的広い地域で使われている言葉を取り上げます。
「んだ」
東京から東北地方に引っ越してきた私が東北で初めて秋を迎え、友人と話をしていました。
私:東北の10月は東京よりもずっとすずしいね。
友人:んだ(そうだ)。
→→「んだ」はあいづちを打つときの言葉で、相手の言ったことを肯定する場合に使います。
「そうだ」というニュアンスの意味で、親しい相手と話すときに首をたてに振りながら使います。「ん」はそれほど強く発音しないので、「だ」と答えているようにも聞こえます。
→→細かく使い分けるならば、「んだな」は「そうだね」というニュアンスで、「んだ」は「そうだ」というニュアンスになります
〈基本〉んだ = そうだ
・んだんず!=そうでしょ!
・んだはんで=だから
・んだばって=だけど
「〜だべ」
小学校で先生が宿題を出しました。子どもたち少し嫌そうな顔をしています。それを見た先生は…。
先生:こじぇげだな しゅくだえ(こんな宿題)、じょさねぇんだべ(すぐにできるでしょ)?
→→「だべ」は東北地方の方言として有名ですが、北海道から関東まで広範囲で使われています。多くの場合「~でしょう?」「~だろう」という意味ですが、地域によって微妙にニュアンスが違います。
→→「じょさね」は東北で広く使われている方言で、「造作ない(手間がかからない)」がなまったものです。「ぞさね」と言う地域もあります。
〈基本〉~だべ =〜でしょう
・だっぺ=茨城県
・だんべえ=群馬県、埼玉県
・だんべ=神奈川県
「おしょすい」
幼い息子が子どもがスーパーの中で歌を歌い始めたので、お母さんが言いました。
母:おしょすい! 静かにしなさい!
→→「おしょすい」は宮城県の方言で「恥ずかしい」という意味です。子どもに「店の中で歌を歌ったら恥ずかしいよ」と教育したのですね。
→→「おしょすい」には「ありがとう」という意味もあり、「おしょしさんでござりす」は「ありがとうございます」です。
「おだつ」
子どもたち数人が家の中で遊んでいました。盛り上がってきて大きな声で騒ぎ始めたときのことです。
親:おだつんでない!
→→騒ぐ子どもたちに「騒ぐんじゃないよ!」としかった場面です。「ふざけないで」、「調子に乗らないで」と注意するときの言葉で、北海道でも使われます。
「ごしゃぐ」
授業中に生徒たちが騒いで止まりません。がまんの限界を超えた先生がどなりました。
先生:しずねど、ごしゃぐど(静かにしないと、おこるよ)!おだってばりいでて(ふざけてばかりいては)わがんね(だめだ)!
帰宅した子ども:今日は先生にしったげ ごしゃがれだ(すごく怒られた)。
→→「ごしゃぐ」は「おこる」、「しかる」という意味です。特に宮城県で使われています。
「めんこい」
2歳になった娘を連れて東北の実家に帰省しました。
私:大きくなったでしょ?先月2歳になったの。
親:めんこいなぁ。
→→「めんこい」は「かわいい」という意味です。
→→岩手、福島、山形の各県では「めんこい」、秋田では「めんけぇ」と言います。岩手県南部では「めごい」とも言います。また、岩手県には「岩手めんこいテレビ」という放送局があります。
「けやぐ」
帰宅したら母からこう言われました。
母:けやぐから電話あたよ(友だちから電話があったよ)。
私:めやぐだじゃ(ありがとう)。
→→「けやぐ」は「友だち」という意味の津軽弁(青森県の方言)です。親しくなった人に「いっつが けやぐだね(もう友だちだね)!」と話しかけるのもありです。
→→「めやぐだ」「めやぐだじゃ」も青森の方言で「ありがとう」の意味です。
「おどげでなえ」
小雨の休日、約束したので子どもを連れて動物園に行こうとしています。
私:息子を連れて動物園に行ってくるね。
父:今日は雨降ってっがら(今日は雨が降っているので)、動物園さ行くんな(動物園に行くのは)おどげでなえんでねが(大変なんじゃないの)?
→→「おどげでなえ」は山形県で「大変だ」という意味で使われます。宮城県では「おどけでね」を「予想以上に」「とんでもない」という意味で使います。
「ほんずなす」
子どもが学校のテストで低い点を取って帰ってきたときの、父との会話です。
子ども:おどど、かにかに(お父さん、ごめんごめん)。
父:なんぼ ほんずねぇな(本当にどうしようもないね)。
→→「ほんずなす」「ほんずなし」は青森県を中心に東北地方で使われる言葉で、「ばか」(関東)や「あほ」(関西)などの意味です。
「本地無し」がなまったもので、本地とは本性や正気のことで、「酒を飲んで本地をなくす」ということが語源です。
「ございん」
東北に旅行することになったので、現地の友人に電話をかけました。
私:来週の週末、東北に旅行するので、あなたのところに寄ってもいいですか?
友人:ございん(どうぞおいでください)。
→→「ございん」は宮城県のことばで「来てください」「お越しください」という意味です。
「いがす」
スーパーのレジで交通系のICカードが使えるかどうか聞いたときの店員との会話です。
私:このカード、使っていいべが(いいですか)?
店員:いがす(いいですよ)。レジ袋は要らねえべが(要りませんか)?
私:いがす(いりません)。
→→「いがす」は宮城県の最北端にある気仙沼(けせんぬま)の方言で、「いらないです」という意味と、「いいですよ」という意味で使われます。使う場面によってまったく違う意味になりますね!
「たごまる」
友人が床に長く座っていて、立ったときに言いました。
友人:ズボンのすそぁたごまって(ズボンのすそが寄って)、えんずぇごどぁ(違和感があるなぁ)。
→→「たごまる」は、もともとはひもやロープなどがからまってほどけない様子(ようす)を言います。着ているもののそでやすそが寄ってきて着心地が悪いときに使います。
まとめ
この記事では、東北弁の特徴的な表現を12個紹介しました。
「んだ」
「〜だべ」
「おしょすい」
「おだつ」
「ごしゃぐ」
「めんこい」
「けやぐ」
「おどげでなえ」
「ほんずなす」
「ございん」
「いがす」
「たごまる」
一口に「東北弁」と言っても、県や地域によって違う表現がたくさんあります。関西エリアで広く使われている関西弁と違って、なまりが大きく難しい言葉が多いです。したがって東北出身の人でも東京にいて東北弁を使う人はほとんど見られません。留学や仕事で東北地方に住んでいる人は土地になじむために少しずつ覚えていってください。