体験談(留学・高度)

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By KOKORO(毎日新聞社+VAIJ主催、在ベトナム日本国大使館など後援)

今回の先輩

ホアン・ティ・ザンさん

1997年生まれ、ゲアン省出身
2015年 5月 Le Hong Phong高校卒業
2015年 9月 環太平洋大学次世代教育学部入学
2019年 9月 環太平洋大学次世代教育学部卒業
2019年 10月 シューワキャリアパワー 入社

はじめに

たくさんのベトナム人技術者を雇う大阪の会社でベトナム人の採用や在留資格(ビザ)の取得・更新手続きを担当するザンさん。日本人と円滑にコミュニケーションできる会話力に加え、仕事への真面目な取り組みが評価されている。まだ新入社員だが貴重な戦力として会社に貢献するザンさんの充実した留学生活を、本人の体験談で振り返る。

大学のゼミ旅行で京都を訪問【2018年12月】

留学のきっかけ

高校3年のとき、高校で岡山県の環太平洋大学の留学説明会がありました。数日後に行われた同大学の試験を受けた結果、学費(年80万円)の半分を4年間免除される資格を得られたため、留学を決意しました。先進国の日本で留学し日本で就職したいと思ったのと、母が応援してくれたからです。

留学にかかった費用は約300,000,000 VND(ベトナム・ドン、約138万円)で、渡航費や1年分の学費、半年分の寮費、当面の生活費を除くと、留学あっせん業者に80,000,000~100,000,000 VNDの手数料を支払った計算になります。留学中は勉強中心でアルバイトは制限時間内にとどめたので、実家への仕送りはできませんでしたが、日本で就職してから毎月送金しています。

岡山市内の小川と桜。日本の桜は本当に美しい。【2016年4月】

日本語の勉強

留学が決まってから、地元の日本語センターで2カ月間だけ勉強しましたが、もちろんそれでは足りません。日本語がほぼできない状態で2015年9月に訪日し、環太平洋大学に入りました。最初の半年間は寮(2人1室)に住み、大学でも寮でも日本語の勉強に専念しました。その結果、半年で日本語能力試験(JLPT)N3のレベルになりました。

大学の日本語の授業も徐々に内容が分かるようになりました。また、最初は大学の紹介で食品工場でアルバイトをしましたが、会話力がついたので居酒屋に採用され、卒業まで3年半働きました。お客さんから注文を聞いたほか、休憩時間や終了後に日本人のアルバイト仲間とたくさん話をし、日本語が上達しました。

居酒屋でアルバイトが終わり、これから日本人の同僚とおしゃべりタイム【2018年】

JLPT受験の教材は「新完全マスター」シリーズ(文法、語彙)を重宝しました。ヒアリングは実生活とYou Tubeのさまざまな学習番組で鍛え、訪日から約2年でN2に合格しました。工夫した点は、漢字やフレーズを紙に書き、声を出して覚える▽新しく覚えた単語や文法を実際の会話ですぐに使う▽使い方や意味が分からなければ日本人に聞く▽mazziなどのアプリも活用する――といったことでした。

大学時代に使ったJLPT対策の教材

日本での生活

私はアルバイトで遅く帰宅した翌朝も授業には遅れず、居眠りもしませんでした。時間のある時は大学の図書館でベトナム人仲間と一緒に自習もしました。

長時間アルバイトをして実家に送金する人もいますが、私は「就職してから送金します」と母に約束し、1週28時間という法律の枠内にとどめました。毎月の給料は8~9万円で、ときどき親からの仕送りを足して学費と生活費をまかないました。3、4年生のときは技能実習の受入組合の通訳の仕事も不定期にあり、時給1,500~3,000円もらえたので、親の援助は受けなくて済むようになりました。

アルバイト先のベトナム人仲間と岡山県内の海へ【2018年7月】

私の家計簿(1カ月の平均)

※100円=21,749 VND(2020年4月23日現在)

収入(合計115,000円~130,000円)

アルバイト2件(飲食店、通訳) 合計115,000 円~130,000円
※居酒屋(時給950円):80,000~90,000円
※通訳(時給1,500~3,000円):30,000~50,000円

支出(合計108,500円~115,500円)

家賃 27,000円
※1人暮らし、ワンルーム
※水道・Wi-Fi込み
授業料 50,000円
※授業料(半額)+設備費など
光熱費 5,000~7,000円
※電気・ガスの合計
携帯電話 1,500円
※LINEモバイル
食費 20,000円
※週3回はバイト先の飲食店で格安のまかないを食べた
雑費 5,000円~10,000円
※衣類、学習教材、交通費など

毎月の差額・貯金(平均5,000~15,000円)

※大学の試験などでアルバイトがあまりできないときは、貯金を取り崩して生活。運転免許証取得など緊急の出費には親が援助。

※実家への仕送りはなし。ベトナムへの一時期国(4年間で2回)や就職活動などの資金は、長期休暇時に毎週40時間働いて貯金した。

就職が決まり、アルバイト仲間が開いてくれた送別会【2019年9月】

さまざまな経験

授業や本からの知識だけでは広がりがないので、さまざまな活動にも参加しました。3、4年のときは学園祭でゼミ仲間と出店を出しました。卒業式などのスタッフも引き受け、後輩の留学生が来るときに先生と一緒に関西空港に出迎えるボランティアもやりました。大学の募集に応じて地元の小学生との交流会にも参加しました。

学園祭でゼミ仲間で出店【2018年10月】

受入組合のアルバイトの求人は少なかったのですが、1度通訳を担当すると、「次回からも頼みたい」と言われ、通訳以外に、訪日したばかりの技能実習生たちに日本の習慣などを教える講師を任されたこともあります。受入組合に付き添ってさまざまな会社を訪問し、先方の仕事内容に応じた日本語を使ったので、言葉の面でも勉強になりました。

大学構内で。日本の秋の彩りの美しさに感動。【2016年11月】

就職活動

就職活動(就活)は苦しい活動ですが、大学が留学生の就活のケアをしっかりやってくれました。学内に留学生の就活をサポートする組織もあり、私たち留学生も日本人と同じようにインターンシップに参加できましたし、会社説明会(合同・単独)にもたくさん参加できました。また、担当の先生がとても親切でした。

3年生の夏休みには、岡山県内の機械工場で2週間インターンをしました。ベトナム人技能実習生が十数人いて管理する人材が必要なため、「卒業後に、よかったらうちに来ませんか」と声もかけていただきました。4年生になって、さまざまな会社説明会に参加し、3社から内定をいただきました。

岡山県内で就職活動【2019年5月】

今の仕事と生活

現在勤務している「シューワキャリアパワー」(本社・大阪府堺市)はベトナム人のエンジニアを直接雇用して自社でも使用し、取引先にも派遣しています。社員の待遇は日本人と同じで、寮費も会社が半額を負担してくれます。私の仕事は、最初は通訳・翻訳が中心で、今は、人材開発(ベトナム人社員の採用や在留資格取得・更新手続きなど)に比重が移りました。ベトナム人社員や取引先とのやり取りがたくさんあり、やりがいのある仕事です。

今の勤務先に就職が内定した直後、内定仲間たちと懇親会【大阪市内で2019年8月】

同じ大学のベトナム人仲間が私を含め大阪で4人働いているので、休日には彼女たちと出かけることもあります。また、自宅で日本語の勉強も続けています。

これから留学する皆さんに

私は日本に来て4年間学び、会社に就職して半年以上経ちました。その間に日本語を覚えただけではなく、たくさんの経験を積み、ベトナムにいたころの自分と比べて大きく成長できたように感じています。

親と離れてアルバイトをしながら生活し、自立心が育ちました。外国人の友だちもたくさんでき、世界が広がりました。また、勤務先は外国人を大切にしてくれますし、気さくな人が多いので、働きやすい職場です。日本に来てよかった、この会社に就職できてよかったと感じています。これから日本に来る後輩の留学生の方々も日本でたくさんの勉強と経験を積み、世界を広げていただけたらと思います。

アルバイトを終えてベトナム人の留学仲間と帰宅中【2017年】