体験談(留学・高度)

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By KOKORO(毎日新聞社+VAIJ主催、在ベトナム日本国大使館など後援)

ベトナムの大学を出て北海道の日本語学校で留学後、技能実習の組合に就職したクインさん。技能実習生の仕事や生活について相談に乗り、ときには彼らの待遇改善について会社と交渉することもあります。なるべく長く日本に住みたいと考えています。

今回の先輩

ドアン・ティ・ゴック・クイン さん

  • 2011年高校卒業〈ニントゥアン省〉
  • 2015年ホーチミン演劇映画大学卒業
  • 2016年日本語学校入学〈北海道〉
  • 2018年星槎道都大学入学〈北海道〉
  • 2018年大学中退、技能実習の組合に就職〈北海道〉
  • 2019年日本語能力試験(JLPT)N1合格
〈1993年生まれ、ニントゥアン省出身〉

技能実習生のケアをする仕事

私が担当している技能実習生たち

私は技能実習生の監理団体(組合)で通訳をしています。実習生たちの悩みや希望を企業に伝えたり、企業が実習生を指導する際に通訳したりします。私の勤務先の組合は新型コロナが流行する前は約600人のベトナム人実習生を北海道各地の80以上の職場に送り込んでいました。多い職種は農業や酪農、建設、パン製造、製本、水産加工などです。

私たち通訳(ベトナム人4人、中国人2人、インドネシア人2人)は手分けして月に1回、すべての実習先を日本人スタッフと一緒に訪問します。私たちも車を運転します。

  • ・経営者や管理者と面会
  • ・実習生たちと面会(通訳)
  • ・これ以外に、通訳が月に1回、1人で各社の寮を訪問
  • ・通訳は訪問時以外にも常時SNSで実習生の相談に対応

技能実習の「技能検定」を受ける実習生たちに同行

実習生たちと面談し、問題がありそうな場合や、実習生と会えなかった場合は、後で電話をしたりその実習生の休みの日に寮を訪問したりします。

  • ・実習生からの相談で一番多いのは、掃除の分担や洗濯機の使用順、シャワーの順番など実習生同士のトラブルです。
  • ・病院に行きたい場合、企業に直接言えず私たちに相談する実習生もいます。その場合、私たちが企業に伝え、通訳として病院にも同行します。
  • ・給料を上げてほしいという相談もあります。組合から会社に賃上げをお願いし、応じてもらったこともあります。

私たちは実習生から「先生」と呼ばれ、いろいろな相談を受けています。「美味しい料理を作ったから一緒に食べませんか」と実習生たちから誘ってもらうこともあります。

日本留学のきっかけ

JENESYSプログラムで初めて来日

私は大学で映画や舞台のデザインを勉強しました。大学2年だった2014年3月、「21世紀東アジア青少年大交流計画」(JENESYS Programme)というアジア諸国の青少年を日本に招く日本政府のプログラムでハノイとホーチミンの演劇映画大学から計20名が招待されました。私もメンバーに選ばれて初めて日本に行き、東京と京都に約10日間滞在しました。桜の花を見て感動し、美しい景色や発達した交通、列に並んで順番を待つ習慣など、日本のすべてに感動しました。

私は大学を卒業後、もう一度日本に行きたくて、日本語の勉強を始めました。デザインの仕事をしながら日本語センターで毎晩3時間勉強し、卒業の1年後に日本留学を始めました。

留学前に支払った費用

私のいとこ(女性)は日本で技能実習をして帰国後、もう一度日本に行って北海道の日本語学校で留学しました。私が日本に行こうと思ったとき、いとこは日本人と結婚して北海道に残っていたので、私もいとこと同じ学校に行くことにしました

留学前の6カ月間、日本語センターで毎日3時間の日本語授業を受けました。留学前に支払った費用は表の通りです。 このうち日本語学校の入学金と1年間の授業料はいとこが貸してくれました。アルバイトだけで学費と生活費をまかなうことは無理なので、私は来日後もいとこにお金を借りました。私は日本で就職後、いとこから借りたお金(約110万円)を1年間ですべて返しました。

◆留学センター
*紹介手数料、在留資格の取得手数料など
8,000,000 ₫
◆ベトナムでの日本語授業料(6カ月)
6,000,000 ₫
◆飛行機代
9,000,000 ₫
◆買い物(服、調味料、食品)
4,000,000 ₫
◆日本語学校の入学金+教材+保険など
¥200,000
◆日本語学校の1年の授業料
¥630,000

留学中の生活と費用

日本語学校の仲間と学校の近くで

私は北海道でいとこの隣の部屋に住みました。ベトナムの実家から援助は受けなかったのですが、日本での学費と生活費をアルバイトだけでまかなうことはできません。留学生のアルバイトは週28時間までと決められているからです。 私の知人は28時間を超えてアルバイトをしたため留学の在留資格を更新できず、留学途中で帰国しました。私は週28時間を守り、足りない分はいとこから借りました。

私は毎日、学校で4時間、自宅で3時間、日本語を勉強しました。そして、覚えた日本語を使ってアルバイト先で日本人の先輩とたくさん話をしたので、会話力がぐんぐん伸びました。 こうして日本に来て1年半でJLPT・N2に合格しました。

◇私の家計簿(1カ月の平均)

※日本語学校に留学時の家計簿

※100円=17,050 VND(2022年6月30日現在)

収入:90,000
アルバイト1件(病院の台所) ¥90,000
支出:116,200円
授業料 ¥52,500
家賃(水道代込み) ¥27,500
※ワンルーム。1人暮らし。 ※隣の部屋に住むいとこのWi-Fiを無料で使用
光熱費(電気・ガス) ¥5,000
携帯電話 ¥1,200
食材費 ¥20,000
雑費・外食費 ¥10,000
毎月の差額:-26,200円
※夏休みは少し長くアルバイト ※足りない分はいとこから借り、就職後に返した

ベトナム人のいない職場

職場の人たちと食事会

北海道の気候は寒いですが、人の心は温かいです。私は2年間働いたアルバイト先で先輩の皆さんにとても親切にしてもらいました。病院の厨房(ちゅうぼう)で入院患者の食事を作る仕事です。日本語学校のベトナム人の先輩が紹介してくれました。自宅から1時間かかる場所にありましたが、ベトナム人の少ない職場だったので、ここに決めました。

ここでは、一緒に働く約10人の中でベトナム人は私だけ。最初は皆さんの日本語が聞き取れませんでしたが、やがて皆さんがゆっくり話してくれるようになりました。仕事中に手を動かしながら話をし、休憩時間にも楽しくおしゃべりをします。分からない言葉も親切に教えてもらえるので、日本語がとてもよく身につきました。

気候は寒いが、人は温かい

職場のおばあさんたちからもらったプレゼント

このアルバイトで得たものは日本語会話の機会だけではありません。 職場には60~70代のおばあさんが多く、外国人は私1人だったので、皆さんが私を孫のようにかわいがってくれました。

  • ・職場でいろんな人がお菓子を買ってきて、私に持ち帰らせてくれました。
  • ・日本に来て最初の冬、おばあさんが「北海道は寒いから」と、私に手袋やタイツ、毛布をくれました。
  • ・私が同じグループの別の病院に転勤したとき、全員で送別会をしてくれました。
  • ・2番目の病院でも親切にしてもらいました。

職場で皆さんと一緒に過ごすのがとても楽しく、そこは私にとって家庭のような場所でした。 私は就職後、別の町に住んでいますが、今も札幌に行くときにときどきおばあさんたちと会っています。

左: アルバイト先の社内報で私の料理が紹介されました。 

右: JLPTの受験票など

大学をやめて日本で就職

私はもっといろいろなことを勉強したいと思い、日本語学校を卒業後、地元の星槎道都(せいさ・どうと)大学に進学しました。しかし、入学した翌月、ベトナムの祖母が病気になりました。私は小さいころから祖母と姉と3人で暮らしていました。祖母はかけがえのない家族です。私は祖母に少しでも良い医療を受けてもらいたいと思い、大学をやめて働くことにしました。私はベトナムの大学を卒業しているので、日本の大学を出なくても就労ビザを取ることができました。

私は在留ベトナム人向けのFacebookページで求人情報を探し、技能実習生の監理団体(組合)の面接を受け、採用されました。技能実習生の多くは日本語もあまり話せず、組合のベトナム人通訳に仕事や生活の相談をします。私は彼らの力になりたいと思い、この仕事を選びました。

日本で長く暮らしたい

夫と旅行〈北海道函館市で2021年〉

私の職場には外国人通訳が8人いるので、ときどき一緒に食事に出かけます。また、私は就職後、在日ベトナム人の先輩の紹介で中国人男性と知り合い、約2年後に結婚しました。夫も元留学生で永住権を持っています。夫婦の会話は日本語です。休みの日は、2人で旅行したりキャンプをしたりして楽しんでいます。

私は日本が大好きですし、このように日本に根を張って生活していますので、今のところベトナムに帰る予定はありません。できるだけ長く日本に住みたいと思っています。