体験談(留学・高度)

vol8501
By KOKORO(毎日新聞社+VAIJ主催、在ベトナム日本国大使館など後援)

大学に入ってから日本語の勉強を始めたチャムさん。一生懸命に勉強をして外国語大学で成績上位になり、学費無料の交換留学生に選ばれました。その留学で1年間住んだ熊本県が大好きになり、帰国後に就職活動をしてオンライン面接で大きな食品会社に合格。今は、熊本に住んで6年目になります

今回の先輩

チャン・ティ・バオ・チャムさん

  • 2013年 フエ大学・フエ外国語大学・日本語日本文化学部入学
  • 2017年熊本大学に交換留学〈熊本県〉
  • 2018年帰国・フエ大学卒業
  • 2018年再来日・大手食品会社に入社〈現在も〉
〈1995年生まれ、フエ市出身〉

大学で初めて日本語を勉強

日本語日本文化学部の文化祭で

私は子どものころから「ドラえもん」や「ちびまる子ちゃん」、「NARUTO」などの日本アニメに慣れ親しんで育ちました。また、ベトナムと日本の関係も良いことから、高校生になって進学先を選ぶときに「日本語や日本文化を学び、日本語を生かした仕事につこう」と考え、外国語大学で日本語を勉強することにしました。

私は大学で初めて日本語を学び、簡単には覚えられないので、日本語の塾にも週5回(1回2時間)通いました。そして、帰宅してからも毎日3時間以上勉強しました。その努力が実って、大学3年のときに日本語能力試験(JLPT)・N2に合格し、大学での成績も上位でした。このため、3年生終了後に熊本大学で1年間の交換留学をすることができました。交換留学生に選ばれたのは、1学年約150人のうち15~20人だけでした。

熊本で1年間の交換留学

熊本大学の留学生仲間

交換留学(2017年4月から1年間)では、毎朝、各国からの留学生約20人が日本語の講義(合計180分)を一緒に受けました。この講義は日本語力のアップにとても役立ちました。午後は、自分で選んだ講義を日本人の学生たちにまじって受講するか、講義のない日は自由に過ごしました。講義はすべて日本語でした。

日本に慣れるまでは、ボランティアの日本人学生にお世話になりました。留学生1人にチューターと呼ばれる大学生1人が世話役として付き、市役所での手続きや銀行口座の開設などを手伝い、熊本県のことや日本での生活に関することをいろいろ教えてくれました。また、留学生と日本人学生の計50人以上で熊本県や隣の宮崎県を観光する大学主催のバスツアーもあり、私も参加しました。

留学中のさまざまな交流

お母さん(右から2番目)と留学生仲間〈長崎県でお父さんが撮影〉

留学中の住まいは熊本大学の留学生寮でした。私の部屋は1人部屋でしたが、寮の1階に共同リビングがあり、そこに行けば、留学生仲間とお菓子を食べながら日本語でおしゃべりをしたり一緒にテレビを見たりすることができました。私は台湾人や中国人、インドネシア人の留学生と特に仲良くなりました。

また、大学が各留学生にホストファミリーを紹介してくれたので、私はほかのベトナム人留学生2人と一緒にあるご夫婦に会いに行きました。私はその後も(ときには1人で、ときにはほかの留学生と一緒に)このご夫婦と毎月のように会い、お二人を「お父さん、お母さん」と呼ぶようになりました。お二人には車で観光に連れて行って頂いたり、日本の正月にご自宅に招いて頂いたりしました。お父さん・お母さんとは、今もときどき会っています。

日本でのアルバイトと友だち

熊本大学や大学院のベトナム人仲間と桜の花見

熊本大学や大学院にはベトナム人学生がたくさんいて、よくみんなでご飯を食べたり、旅行に行ったりしました。こうした先輩の1人が私にアルバイトも紹介してくれました。それは弁当店のレジと厨房(ちゅうぼう)を担当する仕事で、来日した翌月から帰国するまで続けました。また、来日して4カ月目ぐらいにはコンビニのバイトも追加しました。さらに、最後の約3カ月間は、焼きそばなどめん類の弁当を作る工場でも働きました。この仕事は夜8時から朝5時までだったので、大学での受講に支障が出ないように週末だけにしました。

弁当店では同僚の日本人主婦と仲良くなり、一緒に食事をしたり遊びに行ったりするようになりました。また、弁当店やコンビニでは仕事仲間やお客さんとの会話が多く、日本語の練習になりました。そして、食品工場では、職場に入る前に手を洗って手袋をはめ、作業中に食材を落としたら拾って捨て、手袋を交換するなど、日本の厳しい衛生管理を学びました。

私の家計簿(1カ月の平均)

※交換留学校時代の家計簿

※100円=約18,003 VND(2023年2月9日現在)

収入:65,000円~80,000円
給料 ¥65,000~¥80,000

※アルバイト2、3件

支出:67,000円~72,000円
大学の授業料 ¥0
家賃(留学生寮) ¥17,000
電気・ガス・水道・インターネット(1人分) ¥8,000
食費(主に自炊) ¥25,000
携帯電話(通話なし) ¥2,000
家賃(留学生寮) ¥15,000~¥20,000

※交通費、交際費、化粧品、衣類

毎月の差額:10,000円~13,000円

卒業後、就職して再来日

私の食品会社の店舗〈熊本市内〉

交換留学が終わり、私は帰国してフエ大学に通いながら就職活動を始めました。留学前は日本で働くことは想像していなかったのですが、熊本で友だちもできたし住み心地も良かったので、チャンスがあれば熊本で働きたいと思うようになりました。そこで、ベトナムだけでなく熊本の友人・知人にもSNSで仕事の紹介をお願いしていました。

すると、熊本大学大学院の先輩ベトナム人が「熊本の大手食品会社がベトナム人通訳を募集している」と連絡をくださいました。先輩がその会社の人事担当者と知り合いだったそうです。同社は九州にたくさんの店を持ち、弁当やおかずを販売しています。留学中に利用したこともあったので、私は喜んで応募しました。

熊本市

先輩が人事担当者と私をLINEでつなげてくださったので、私は履歴書をメールで送り、数日後にその担当者からSkypeで約40分間のオンライン面接を受けました。その翌週、2回目のオンライン面接を受け、次の週にはメールで内定通知を頂きました。それは、相手とLINEでつながってからわずか3週間、留学を終えて帰国して2カ月目のことでした。

私は2018年5月に就職の内定通知をいただいて7月に大学を卒業し、9月に再び日本に来てこの会社に入りました。住居は会社の寮でしたが、そこに入居する前に少しだけ熊本のお父さん・お母さんの家に泊めていただきました。

日本での仕事の内容

技能実習生の友人とショッピング

私は入社してからずっと総務課に所属し、一般の総務の仕事以外にベトナム人従業員のサポートを担当しています。当社には技能実習生や特定技能外国人が約260人おり、そのうちベトナム人が約200人(実習生約150人、特定技能外国人約50人)です。この人たちの職場は食品工場で、私は日本人がこの人たちとやり取りをする際の通訳をし、生活のサポートもしています。

例えば、技能実習生が給与明細の内容に疑問があるときは私が説明をし、体の具合が悪いときは病院に同行します。実習生の寮の洗濯機やエアコンなどが故障した場合は、私が修理・買い換えを担当し、実習生が寮で大声で宴会をしたりゴミ捨てのルール違反をしたりして近所から苦情が出たときは、私が近所に謝罪し実習生に教育を行います。

休日のキャンプ生活

私が熊本で働き始めてから見つけた新しい趣味はキャンプです。熊本県や周辺の海や川は美しく、素敵なキャンプサイトがたくさんあります。週末に親しい人と一緒にキャンプを楽しむこともあれば、1人で車でキャンプサイトに行ってテントを張り、星空や海景色を満喫することもあります。日本の美しい自然と溶け合う至福のひとときです。

ずっと日本で暮らしたい

就職後、一時帰国した際に友だちとホーチミンに旅行

私は2018年に熊本で就職してからベトナムに2度帰国しました。新型コロナの影響で帰国できない時期もありましたが、もし帰国しようと思えば、熊本から電車で約1時間で福岡空港に行けて、そこからベトナムに直行便があります。また、最近は、熊本にもベトナム人が多く、ベトナム料理店も増え始めています。

私は将来、今の仕事をしながら、仕事で身につけた知識を活用して、日本で困っているベトナム人をサポートしたいと考えています。例えば、私の会社では、技能実習生が妊娠しても、休暇を取得してまた復職できますが、会社によっては実習生が妊娠すると強制的に帰国させられるケースもあります。何かに困っているベトナム人が私に相談してくだされば、日本の法律や制度、相談できる行政機関などを教えられる場合もあります。できるだけ長く日本に住み、周りの人のお役にも立てればと思っています。