わたしの体験

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By KOKORO(毎日新聞社+VAIJ主催、在ベトナム日本国大使館など後援)

今回の先輩

ズンさん=仮名
  • 2018年高校卒業〈ドンナイ省〉
  • 2019年送出機関に登録〈ホーチミン〉
  • 2020年訪日(2月)→入国後講習
  • 2020年建築の技能実習〈富山県、神奈川県〉
  • 2020年不法就労(7~10月)〈長野県)
  • 2020年日越ともいき支援会で保護〈東京〉
  • 2021年介護のアルバイト〈東京〉

〈1998年生まれ、ドンナイ省出身〉

ズンさん(仮名)は技能実習中に失踪し、農家で不法就労をしたが、この仕事を紹介した会社が警察に摘発された。失踪生活で心身ともに疲れ、「失踪せず、支援機関に相談すればよかった」と後悔する。

家業倒産で多額の借金

私が通った送出機関の日本語センターで旧正月を祝うイベント

私の父はアンザン省で稲作と小型船エンジンの販売をしていましたが、私が高校生のときにエンジン販売業が倒産し、約7億ドン(約320万円)の負債ができました。両親は自宅と水田を売って一部を返済し、知人から紹介された家具工場で働くためにドンナイ省に移りました。私と兄は近所の祖父母のもとに残り、両親の生活が落ち着いてから合流しました。

高校2年の途中でドンナイ省に移り、3カ月間は両親と一緒に働き、翌年度に高2をもう一度やり直しました。転校前の成績はクラスの上位3分の1に入っていましたが、多額の借金があるので、進学をあきらめました。そのころ、高校に送出機関が来て技能実習の説明をしました。「日本に行けば、ベトナムでは考えられない額の給料をもらえ、技術も学べる」という説明でした。

紹介少なく、不人気業種に応募

不合格になった最初の採用面接〈ホーチミン市で2019年6月〉

私は技能実習生になろうと思い、どの送出機関に依頼すべきかネットで調べました。「信用できる送出機関ランキング(Top công ty xuất khẩu lao động nhật bản uy tín)」などのキーワードで検索し、約10社をリストアップしました。これらの会社に電話などで問い合わせ、条件や対応のよかった2社を訪問して1社を選びました。同社の担当者は「手取り給料は30,000,000ドン(約138,000円)を超える」と説明しました。

私はこの会社に2019年2月に登録しましたが、リサーチ不足だったことが後で分かりました。人気職種の求人紹介が少なかったのです。たまに良い求人があっても、他の送出機関からの紹介で、採用された場合に20,000,000ドンの追加料金がかかります。このため、6月にやっと最初の面接を受け(不合格)、7月に2回目の面接で合格しました。不人気の建設業でしたが、焦りもあって仕方なく応募したのです。

3カ月で労働内容変更

短かった富山での生活〈2020年3月〉

私は2020年2月に訪日し、3月から富山県で技能実習を始めました。手取り給料は約104,000円(約22,666,000ドン)でした。工場で機械を使って鉄筋を折り曲げ、針金で束ねてから運ぶ仕事でした。

当初の契約書では、1年間はこの作業で、2年目から建築現場で働くことになっていました。しかし、実際には、3カ月で神奈川県に転勤させられて新しい契約書に署名させられ、東京・新宿の超高層ビル建築現場にかり出されました。手取り給料は約135,000円に増えましたが、仕事が過酷なうえ、職場環境にも問題がありました。

不平等な重労働

新宿の超高層ビル建築現場〈2020年6月〉

ここでの仕事は8:00~17:00ですが、家を出るのは5:30、帰宅は19:30でした。いくつかの会社から役割の違うチームが集まり、私たちの会社からは10~20人(半分以上がベトナム人)が出向いていました。私たちの役割は鉄筋を組み立てるための準備ですが、同じチームの若い日本人3人が楽な仕事を取り、私たち実習生は鉄筋運びが中心でした。鉄筋を肩に担いで数十㍍運びます。1人で20㌔以上、2人で約50㌔の鉄筋を運ぶこともあります。鉄筋運びばかりを1日中させられることもあり、歩けなくなるぐらいけなくなるぐらい疲れました。現場責任者が状況を把握しておらず、仕事の割り振りが不平等だったのです。

また、若い日本人3人は休憩時間などに私たちの悪口を言いふらしていました。先輩実習生によると、「仕事のできが悪い」「帰国すればいい」などと言っていたそうです。関係を良くしようと、私たちが休憩時間に飲み物を渡しても、彼らには無視されてしまいました。

ウーバーイーツ詐欺

新大久保駅周辺〈資料写真〉

こうした日々が続き、私は失踪を考え始めました。仕事の過酷さや職場の人間関係も原因ですが、期待していた給料より低かったことが最大の要因でした。このままでは実家の借金をなかなか返せないと思ったのです。手取り給料がせめて150,000円あれば、思いとどまっていたかも知れません。

神奈川に転勤して1カ月後の7月4日(給料日の翌日)、同期のタム君(仮名)と私は失踪しました。そのころ、送出機関の同期で他社から先に失踪していたチェン君(仮名)が東京でウーバーイーツの仕事をしていました。ベトナムのグラブイーツと同じ仕事です。私たちは電車で東京のJR新大久保駅に行き、チェン君を訪ねました。彼は2段ベッドが3台置かれた狭い部屋に住んでいました。部屋の借主の留学生とチェン君ら失踪者3人がおり、私たちもここに1人1万円で2週間住ませてもらいました。

ウーバーイーツ配達員〈資料写真〉

ウーバーイーツの仕事をするにはアカウントを作らなければなりませんが、技能実習生は登録できませできません。そこで、アカウントのヤミ取引が行われています。私たちはチェン君の紹介で自称留学生のベトナム人2人に10万円ずつ払ってアカウントを購入しました。しかし、翌日にはログインできなくなり、彼らと連絡が取れなくなりました。私は売った男のSNS記録から彼の知人を探して男の住所を聞き出し、訪ねて行ってまず5万円を回収しました。ただ、相手はすぐに転居し、残額は回収できませんでした。

不法就労へのプロセス

不法就労現場の畑〈長野県川上村で2020年〉

そこで、私とタム君はFacebookページ“Tokyo Baito”で求人情報を探したり、失踪経験者などに問い合わせたりしました。私たちが使った送出機関の日本語教師(元実習生)2人にも問い合わせると、1人が日本に住む友人をSNSで紹介してくれました。その人からは、太陽光パネルや農業、解体の仕事があると連絡を受けましたが、勤務開始まで2週間かかるとのことだったので遠慮しました。

数日後、Tokyo Baitoで「長野県で農業の仕事。すぐに働ける」という趣旨の投稿を見つけました。私はSNSでたまたまつながっていた失踪実習生に「このバイトは信用できますか?」と尋ねました。彼は「大丈夫だ。この仕事のあっせん業者を紹介する」と言い、トゥンという人物をSNSで紹介してくれました。私とタム君はトゥン氏にメッセージを送り、先に返事をもらったタム君が翌日、長野県に行って農家を紹介されました。私にも1日遅れてトゥン氏から返信があり、偽造在留カードを作るためにパスポートと在留カードの写真を送信するよう指示されました。偽造費用の1万円を送金する際には、他人のキャッシュカードを使いました。私がネットでやり取りして違法に入手したカードでした。

偽造在留カードの費用を振り込むために使った他人のキャッシュカード

7月14日、新幹線で長野県の佐久平駅に着くと、トゥン氏が待っていました。彼が運転する車で約1時間かけて長野県川上村に向かう途中、ホアンという人物も乗車しました。偽造在留カードはまだできておらず、ホアン氏の指示で農家の主人に本物を見せたのですが、主人は承諾しました。 主人は不法就労と知りながら私を雇ったことになります。私はホアン氏に2万円を払い、その日からここに住みました。寮は倉庫の2階でした。

不法就労の実態

午後は草むしりや施肥など〈長野県川上村で2020年〉

農家の仕事はハードでした。朝1時半に起きて、2時から11時半まで働きます。その間、休憩はわずか10分。その後、2時間の昼休みをはさんで13時半から16時半まで働きます。終業後は夕食とシャワーだけ済ませ、19時までに就寝します。未明の仕事では、ヘッドランプで照らしながらレタスの根元を包丁で切って収穫し、サイズを分けて箱詰めした後、トラックに載せます。午後は苗の植え付けや施肥、草むしりなどをします。

作業をするのは日本人3人とベトナム人3人です。川上村と隣の南牧村では約1,500戸の農家が外国人労働者を必要としていますが、新型コロナの影響で外国人の入国が止まり、ホアン氏らの不法就労あっせんに頼る農家が続出していたようです。

失職

ホアンアン社から送られてきたSNSメッセージ

当時はレタス出荷の最盛期で、9月末まで休日なしでしたが、手取り給料は7月(15日間):約15万円(約32,690,000ドン)▽8月:約24万円▽9月:約23万円――あったので、助かりました。ただ、10月には仕事が減り、約15万円になりました。給料はホアン氏らの会社の人が毎月車でやって来て現金で渡してくれました。毎月の出費は4万円くらいで、実家にたくさん送金できました。ただ、冬は給料が減るので、そろそろほかの仕事を探さなければと思っていた矢先、突然解雇されることになりました。

10月13日、会社からSNSで連絡が来ました。「警察に調べられている。ベトナム人労働者との契約を終える方向だ」という趣旨でした。20日、ベトナム人不法就労者100人以上が村の農協に集められ、大阪から来た日本人やホアン氏らから「ホアンアン合同会社に警察の捜査が入ったので、皆さんとの契約を終える。皆さん逃げてください」と通告されました。私は自分がホアンアンの派遣社員だったことを初めて知りました。27日、主人に駅まで車で送ってもらい、東京に戻りました。東京では、知人から紹介されたNPO法人に保護してもらいました。

【編集部からの説明】

「ホアンアン合同会社」は大阪市内の会社で、2020年10月、代表社員の女性やダン・ヴ・ホアン業務執行役員が、無許可で労働者を供給したとして職業安定法違反容疑で逮捕され、その後、起訴されました。

失踪の結末

◆ わが家の借金と返済の状況
借金 返済 借金残額
1 倒産 700,000,000 đ 700,000,000 đ
2 家と水田売却 250,000,000 đ 450,000,000 đ
3 両親の工場勤務 150,000,000 đ 300,000,000 đ
4 私の訪日費用 190,000,000 đ 490,000,000 đ
5 家財売却 30,000,000 đ 460,000,000 đ
6 親せきの援助 130,000,000 đ 330,000,000 đ
7 私からの送金 150,000,000 đ 180,000,000 đ
※100,000,000₫ =約458,400円(2021年2月22日現在)

失踪して半月後、ビデオ通話中に私の部屋が以前と違うことに気付いた母に追及され、「失踪して農業をしている」と白状しました。母はとても心配しました。 また、富山県の3カ月で計21万円、長野県の4カ月で計50万円を両親に送りましたが、失職後の2カ月間半は無収入でした。失踪すると雇用が安定せず、無職の時期もできるので、失踪せず地道に働き続ける方が、結局はたくさん送金できるようです。

日越ともいき支援会で〈2020年10月〉

私は今では、失踪したことを後悔しています。不法就労は精神的にも疲れました。しかも、農家の仕事は工事現場の仕事と同じぐらいきつかったうえ、夜間や休日の割り増し賃金が支払われませんでした。それなのに、不法就労なのでどこにも相談できませんでした。今なら、技能実習先で困難があれば、まず監理団体に相談します。それでだめなら外国人技能実習機構(OTIT)や民間の支援機関に相談します。

私はNPO法人日越ともいき支援会の支援で2021年1月から介護のアルバイトをしています。今の手取りは11万~13万円ですが、試験に受かって特定技能外国人になれれば、給料が上がり長期間働けます。地道に働いて借金を返し、将来のために貯金もしたいと思います。

今回の先輩

Dung(ズン)さん=仮名
  • 2018年 高校卒業〈ドンナイ省〉
  • 2019年 送出機関に登録〈ホーチミン〉
  • 2020年 訪日(2月)→入国後講習
  • 2020年 建築の技能実習〈富山、神奈川〉
  • 2020年 不法就労(7~10月)〈長野)
  • 2020年 日越ともいき支援会で保護〈東京〉
  • 2021年 介護のアルバイト〈東京〉

〈1998年生まれ、ドンナイ省出身〉

ズンさん(仮名)は技能実習中に失踪し、農家で不法就労をしたが、この仕事を紹介した会社が警察に摘発された。失踪生活で心身ともに疲れ、「失踪せず、支援機関に相談すればよかった」と後悔する。

家業倒産で多額の借金

私の父はアンザン省で稲作と小型船エンジンの販売をしていましたが、私が高校生のときにエンジン販売業が倒産し、約7億ドン(約320万円)の負債ができました。両親は自宅と水田を売って一部を返済し、知人から紹介された家具工場で働くためにドンナイ省に移りました。私と兄は近所の祖父母のもとに残り、両親の生活が落ち着いてから合流しました。

高校2年の途中でドンナイ省に移り、3カ月間は両親と一緒に働き、翌年度に高2をもう一度やり直しました。転校前の成績はクラスの上位3分の1に入っていましたが、多額の借金があるので、進学をあきらめました。そのころ、高校に送出機関が来て技能実習の説明をしました。「日本に行けば、ベトナムでは考えられない額の給料をもらえ、技術も学べる」という説明でした。

私が通った送出機関の日本語センターで旧正月を祝うイベント

紹介少なく、不人気業種に応募

私は技能実習生になろうと思い、どの送出機関に依頼すべきかネットで調べました。「信用できる送出機関ランキング(Top công ty xuất khẩu lao động nhật bản uy tín)」などのキーワードで検索し、約10社をリストアップしました。これらの会社に電話などで問い合わせ、条件や対応のよかった2社を訪問して1社を選びました。同社の担当者は「手取り給料は30,000,000ドン(約138,000円)を超える」と説明しました。

私はこの会社に2019年2月に登録しましたが、リサーチ不足だったことが後で分かりました。人気職種の求人紹介が少なかったのです。たまに良い求人があっても、他の送出機関からの紹介で、採用された場合に20,000,000ドンの追加料金がかかります。このため、6月にやっと最初の面接を受け(不合格)、7月に2回目の面接で合格しました。不人気の建設業でしたが、焦りもあって仕方なく応募したのです。

不合格になった最初の採用面接〈ホーチミン市で2019年6月〉

3カ月で労働内容変更

私は2020年2月に訪日し、3月から富山県で技能実習を始めました。手取り給料は約104,000円(約22,666,000ドン)でした。工場で機械を使って鉄筋を折り曲げ、針金で束ねてから運ぶ仕事でした。

当初の契約書では、1年間はこの作業で、2年目から建築現場で働くことになっていました。しかし、実際には、3カ月で神奈川県に転勤させられて新しい契約書に署名させられ、東京・新宿の超高層ビル建築現場にかり出されました。手取り給料は約135,000円に増えましたが、仕事が過酷なうえ、職場環境にも問題がありました。

短かった富山での生活〈2020年3月〉

不平等な重労働

ここでの仕事は8:00~17:00ですが、家を出るのは5:30、帰宅は19:30でした。いくつかの会社から役割の違うチームが集まり、私たちの会社からは10~20人(半分以上がベトナム人)が出向いていました。私たちの役割は鉄筋を組み立てるための準備ですが、同じチームの若い日本人3人が楽な仕事を取り、私たち実習生は鉄筋運びが中心でした。鉄筋を肩に担いで数十㍍運びます。1人で20㌔以上、2人で約50㌔の鉄筋を運ぶこともあります。鉄筋運びばかりを1日中させられることもあり、歩けなくなるぐらい

けなくなるぐらい疲れました。現場責任者が状況を把握しておらず、仕事の割り振りが不平等だったのです。 また、若い日本人3人は休憩時間などに私たちの悪口を言いふらしていました。先輩実習生によると、「仕事のできが悪い」「帰国すればいい」などと言っていたそうです。関係を良くしようと、私たちが休憩時間に飲み物を渡しても、彼らには無視されてしまいました。

新宿の超高層ビル建築現場〈2020年6月〉

ウーバーイーツ詐欺

こうした日々が続き、私は失踪を考え始めました。仕事の過酷さや職場の人間関係も原因ですが、期待していた給料より低かったことが最大の要因でした。このままでは実家の借金をなかなか返せないと思ったのです。手取り給料がせめて150,000円あれば、思いとどまっていたかも知れません

神奈川に転勤して1カ月後の7月4日(給料日の翌日)、同期のタム君(仮名)と私は失踪しました。そのころ、送出機関の同期で他社から先に失踪していたチェン君(仮名)が東京でウーバーイーツの仕事をしていました。ベトナムのグラブイーツと同じ仕事です。私たちは電車で東京のJR新大久保駅に行き、チェン君を訪ねました。彼は2段ベッドが3台置かれた狭い部屋に住んでいました。部屋の借主の留学生とチェン君ら失踪者3人がおり、私たちもここに1人1万円で2週間住ませてもらいました。

新大久保駅周辺〈資料写真〉

ウーバーイーツの仕事をするにはアカウントを作らなければなりませんが、技能実習生は登録できませ

できません。そこで、アカウントのヤミ取引が行われています。私たちはチェン君の紹介で自称留学生のベトナム人2人に10万円ずつ払ってアカウントを購入しました。しかし、翌日にはログインできなくなり、彼らと連絡が取れなくなりました。私は売った男のSNS記録から彼の知人を探して男の住所を聞き出し、訪ねて行ってまず5万円を回収しました。ただ、相手はすぐに転居し、残額は回収できませんでした。

ウーバーイーツ配達員〈資料写真〉

不法就労へのプロセス

そこで、私とタム君はFacebookページ“Tokyo Baito”で求人情報を探したり、失踪経験者などに問い合わせたりしました。私たちが使った送出機関の日本語教師(元実習生)2人にも問い合わせると、1人が日本に住む友人をSNSで紹介してくれました。その人からは、太陽光パネルや農業、解体の仕事があると連絡を受けましたが、勤務開始まで2週間かかるとのことだったので遠慮しました。 数日後、Tokyo Baitoで「長野県で農業の仕事。すぐに働ける」という趣旨の投稿を見つけました。私はSNSでたまたまつながっていた失踪実習生に「このバイトは信用できますか?」と尋ねました。彼は「大丈夫だ。この仕事のあっせん業者を紹介する」と言い、トゥンという人物をSNSで紹介してくれました。私とタム君はトゥン氏にメッセージを送り、先に返事をもらったタム君が翌日、長野県に行って農家を紹介されました。私にも1日遅れてトゥン氏から返信があり、偽造在留カードを作るためにパスポートと在留カードの写真を送信するよう指示されました。偽造費用の1万円を送金する際には、他人のキャッシュカードを使いました。私がネットでやり取りして違法に入手したカードでした。

不法就労現場の畑〈長野県川上村で2020年〉

7月14日、新幹線で長野県の佐久平駅に着くと、トゥン氏が待っていました。彼が運転する車で約1時間かけて長野県川上村に向かう途中、ホアンという人物も乗車しました。偽造在留カードはまだできておらず、ホアン氏の指示で農家の主人に本物を見せたのですが、主人は承諾しました。主人は不法就労と知りながら私を雇ったことになります。 私はホアン氏に2万円を払い、その日からここに住みました。寮は倉庫の2階でした。

偽造在留カードの費用を振り込むために使った他人のキャッシュカード

不法就労の実態

農家の仕事はハードでした。朝1時半に起きて、2時から11時半まで働きます。その間、休憩はわずか10分。その後、2時間の昼休みをはさんで13時半から16時半まで働きます。終業後は夕食とシャワーだけ済ませ、19時までに就寝します。未明の仕事では、ヘッドランプで照らしながらレタスの根元を包丁で切って収穫し、サイズを分けて箱詰めした後、トラックに載せます。午後は苗の植え付けや施肥、草

むしりなどをします。 作業をするのは日本人3人とベトナム人3人です。川上村と隣の南牧村では約1,500戸の農家が外国人労働者を必要としていますが、新型コロナの影響で外国人の入国が止まり、ホアン氏らの不法就労あっせんに頼る農家が続出していたようです。

午後は草むしりや施肥など〈長野県川上村で2020年〉

失職

当時はレタス出荷の最盛期で、9月末まで休日なしでしたが、手取り給料は7月(15日間):約15万円(約32,690,000ドン)▽8月:約24万円▽9月:約23万円――あったので、助かりました。ただ、10月には仕事が減り、約15万円になりました。給料はホアン氏らの会社の人が毎月車でやって来て現金で渡してくれました。毎月の出費は4万円くらいで、実家にたくさん送金できました。ただ、冬は給料が減るので、そろそろほかの仕事を探さなければと思っていた矢先、突然解雇されることになりました。

10月13日、会社からSNSで連絡が来ました。「警察に調べられている。ベトナム人労働者との契約を終える方向だ」という趣旨でした。0日、ベトナム人不法就労者100人以上が村の農協に集められ、大阪から来た日本人やホアン氏らから「ホアンアン合同会社に警察の捜査が入ったので、皆さんとの契約を終える。皆さん逃げてください」と通告されました。私は自分がホアンアンの派遣社員だったことを初めて知りました。27日、主人に駅まで車で送ってもらい、東京に戻りました。東京では、知人から紹介されたNPO法人に保護してもらいました。

午後は草むしりや施肥など〈長野県川上村で2020年〉

【編集部からの説明】

「ホアンアン合同会社」は大阪市内の会社で、2020年10月、代表社員の女性やダン・ヴ・ホアン業務執行役員が、無許可で労働者を供給したとして職業安定法違反容疑で逮捕され、その後、起訴されました。

失踪の結末

失踪して半月後、ビデオ通話中に私の部屋が以前と違うことに気付いた母に追及され、「失踪して農業をしている」と白状しました。母はとても心配しました。また、富山県の3カ月で計21万円、長野県の4カ月で計50万円を両親に送りましたが、失職後の2カ月間半は無収入でした。失踪すると雇用が安定せず、無職の時期もできるので、失踪せず地道に働き続ける方が、結局はたくさん送金できるようです。

◆ わが家の借金と返済の状況
借金 返済 借金残額
1 倒産 700,000,000 đ 700,000,000 đ
2 家と水田売却 250,000,000 đ 450,000,000 đ
3 両親の工場勤務 150,000,000 đ 300,000,000 đ
4 私の訪日費用 190,000,000 đ 490,000,000 đ
5 家財売却 30,000,000 đ 460,000,000 đ
6 親せきの援助 130,000,000 đ 330,000,000 đ
7 私からの送金 150,000,000 đ 180,000,000 đ
※100,000,000₫ =約458,400円(2021年2月22日現在)

私は今では、失踪したことを後悔しています。不法就労は精神的にも疲れました。しかも、農家の仕事は工事現場の仕事と同じぐらいきつかったうえ、夜間や休日の割り増し賃金が支払われませんでした。それなのに、不法就労なのでどこにも相談できませんでした。今なら、技能実習先で困難があれば、まず監理団体に相談します。それでだめなら外国人技能実習機構(OTIT)や民間の支援機関に相談します。

私はNPO法人日越ともいき支援会の支援で2021年1月から介護のアルバイトをしています。今の手取りは11万~13万円ですが、試験に受かって特定技能外国人になれれば、給料が上がり長期間働けます。地道に働いて借金を返し、将来のために貯金もしたいと思います。

日越ともいき支援会で〈2020年10月〉