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センパイ座談会_03 日本のおもてなし

センパイ座談会_03 日本のおもてなし2
2021年11月25日

相手を見てから「いらっしゃいませ」、食べるペースに合わせて配膳――日本での勤務経験が豊富なセンパイが日本の接客について話します。日本で受けたカルチャーショックや“びっくりエピソード”を先輩たちが振り返る『センパイ座談会』。今回のテーマは「日本のおもてなし(心のこもった接客)」です。

今回のセンパイたち

左からリンさん、ヴさん、ズンさん、LAさん

Ngoc Linh (ゴック・リン)さん=2016年来日。神奈川県在住。私立大学4年。
Vu Ha(ヴ・ハー)さん=2017年来日。大阪府在住。大阪大学大学院修士課程2年。
Dung (ズン)さん=2008年来日。留学を経て東京で会社経営。
司会=Lan Anh(ランアイン、LA)さん=KOKORO編集部。日本在住30年以上。

本物の「おもてなし」

――(司会:LA)「おもてなし」という言葉は「心のこもった接客」を意味します。皆さんは日本で「おもてなし」を体験しましたか?

ゴック・リン 私は留学中にさまざまなアルバイトをしました。コンビニ、カフェ(秋葉原)、ファミレス、スーパー、焼き鳥店(渋谷)、ステーキ店(新宿)などです。それぞれの店にそれぞれの「おもてなし」があり、日本のサービスの真髄をたくさん知ることができました。

中でも渋谷の焼き鳥店では5年ほど働いています。ここにはさまざまな年齢層のお客様が来られ、コロナ以前は外国人客も多くいました。この店で私は多くのことを学びました。

例えば、お客様が来店すると、従業員全員がお客様を見て「いらっしゃいませ」と言います。皿を洗ったり、野菜を手に取ったり、飲み物を作ったり――といった作業をすべて止め、お客様を見てあいさつするように教わりました。他にもたくさんの店があるのに私たちの店を選んでくれたことに対して、お客さまに感謝をこめてあいさつをするのです。

もし、振り返らずに声だけで「いらっしゃいませ」と口にしても、そのようなあいさつには意味がなく、気持ちがこもっていません。また、お客様が帰られる際には、遠くから声をかけるのではなく、出口までお見送りをしています。

この店であるお客様から聞いたことがあります。スタッフが温かく迎えてくれると、次回も来たくなるそうです。食事を出すのが遅くなったりした場合でも、最初に誠意のこもったあいさつで好印象を持って頂ければ、お客様は大らかに受け止めてくださるようです。

また、人気店ではトイレが常にきれいに掃除されている場合が多く、耳掃除用の綿棒やつまようじ、うがい薬などをトイレに置いている場合もあります。中には、女性用トイレに生理用ナプキンを常備している店さえあります。

――(LA)素晴らしいお店で働いてきたのですね。そのようなあいさつやサービスを受けると、確かに気分が良いですね。「顧客の気持ちを考え、誠意をこめて細やかに接客する」。これこそが「おもてなし」の精神ですね。

ゴック・リン はい、この店では「常にお客様の側に立って考える」ということを教わりました。ほかに、お客様が食べるペースも観察し、そのペースに合わせて料理を出すように心がけています。前の料理がたくさん残っているのに新しい料理を次々に持っていくと、お客様が新しい料理に手を付けるころには冷めてしまいます。

ズン 日本の「おもてなし」がこのレベルに到達するまでには長年の努力の積み重ねがあったと思います。ベトナムが日本に追いつくには少し時間がかかるでしょうが、ぜひ見習っていきたいですね。

ところで、私の会社はスーパーのレジや荷出しを請け負っており、多国籍の外国人50人以上に働いてもらっています。彼らには、お客様を見かけたら「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」としっかり言うように、くり返し指導しています。

スーパーの接客に課題

ゴック・リン 私はある大手スーパーマーケットでもバイトをしています。しかし、店が大きいほど、スタッフのトレーニングが行き届かないように感じます。私と同年代の日本人の同僚たちがいますが、彼女たちは顧客にあまり関心を持たず、ただ作業をこなしているだけです。お客様に親切にしようという「おもてなし」の心は感じられず、ただお金を稼ぐためだけに仕事をしているように見えます。

年配の従業員はもっと顧客の立場に立って仕事をしています。私も顧客によく注意を払い、例えば、年配のお客様がレジに来られたら、会計後に買い物かごを代わりに台まで持って行きます。しかし、若い同僚たちは顧客の状況には無関心で、ただレジだけを打っています。

また、小さな子どもさんが親と一緒に来た場合、キャラクター付きのキャンディーなどをよく買ってもらいます。子どもたちはそれを手に持って早く食べたそうにしているので、私は最初にキャンディーの会計を済ませて子どもさんに渡し、その後で残りの会計をします。この辺りも、若い同僚には気が回りません。

この店では、顧客への気配りについてほとんど教育がなされていません。店がスタッフに求めるのは、間違わずにレジを打ち、お金を失わないようにということが中心で、顧客の気持ちには無関心のように感じます。

ゆっくり選べない

――(LA)ヴ・ハーさんは日本のサービスについて何か思うことがありますか?

ヴ・ハー 私はある日、靴屋に行きました。すると、店員がすぐに私に駆け寄り、「お客様の靴のサイズはいくつですか?探してまいります」と話しかけました。私は「入ったばかりなので、まずはゆっくり見たいです」と答えました。スタッフは「分かりました」と答えたものの、その後も私を注視しているように感じ、商品をゆっくり選んだり買ったりする気持ちになれませんでした。

――(LA)小さな店や高級店に行くと、店員さんがぴったりくっつくケースもありますね。そのようなサービスを喜ぶ客もいるのかも知れませんが、通常はきゅうくつに感じますね。

電車・バスの案内

――(LA)交通機関のサービスについてはいかがですか?

ゴック・リン 2021年10月に東京と周辺で強い地震が発生し、多くの列車に運休や遅れが出ました。私が地震の翌日に電車を利用した際にも、列車の遅れはまだ続いていましたが、駅では最新の運行状況に関する案内が常にアナウンスされ、遅れを謝罪していました。行き届いた案内に感心しました。

ヴ・ハー ベトナムでは乗降のためにバスが完全に止まることはありません。バス停でもぎりぎりまで減速するだけなので、あわてて乗り降りしなければなりません。

ズン 日本の電車やバスには優先席がありますね。車掌も「お年寄りやお体の不自由なお客様、妊娠中や小さなお子様をお連れのお客様がいらっしゃいましたら、お席をお譲りください」と車内にアナウンスしており、必要な人を差し置いて優先席に座る乗客はほとんどいません。ベトナムのバスでも「子どもや老人に席を譲りましょう」とアナウンスしますが、優先席は見かけないですね。

ヴ・ハー 大都市以外の駅や車内では多言語での表示やアナウンスが少ないため、日本語初心者にとっては地方都市での電車・バスの利用は難しいですね。大都市以外でも多言語の案内が増えることを願います。