困りごと解決

困りごと相談簿 file 09:「自主退職」ではないことの証明

【相談】技能実習の1年目、寮に突然やって来た
2021年07月30日

技能実習生が無断で県外に出ただけで退職に追い込まれました。支援団体のサポートで転職先を見つけましたが、在留資格を変更する際に入管が前の会社に退職理由を聞くと、会社は「自分からやめた」と説明しました。自分からやめた場合、在留資格変更が難しくなります。しかし、彼女はある手紙を入管に提出し、会社の説明がウソだと信じてもらうことができました。

カテゴリー 労働、技能実習

【相談者】
・元技能実習生
・20代・ベトナム人女性
・実習地:徳島県

労働契約法は技能実習など期間の定めのある雇用契約について、「やむを得ない事由(理由)」がなければ、期間途中で解雇はできないと規定しています。しかし、会社が実習生に退職(実習中止)を強制し、「自分の意思で退職する」という虚偽の書類に署名させることが横行しています。このようにして失業した実習生が新たな職場を探す場合、このような書類や会社側の虚偽説明が妨げになる場合があります。

「仕事をやめて帰国してください」


スーパーで惣菜や弁当を作る実習をしていました

アンさんは徳島県のスーパーマーケットで惣菜(そうざい)などを作る技能実習をしていましたが、新型コロナの感染拡大が続いていた2020年11月、同僚と2人で有給休暇(5日間)を取って隣県の友だちに電車で会いに行きました。すると、初日に別のベトナム人の同僚から電話があり、「県外に遊びに行っているのならすぐに帰ってくるようにと店長が言っている」とのことでした。

アンさんは休暇申請時に会社から聞かれ、「外出予定はない」と答えましたが、その後、香川県の友人から誘われ、会社に言わずに会いに行きました。そのことをだれかが職場で話したようです。

アンさんたちは翌日、徳島に戻り、監理団体(組合)の用意した部屋で2週間、隔離されました。PCR検査の結果は陰性で、隔離後に職場に戻りましたが、約1週間後の12月中旬、上司から「あなたたちのことはもう信用できないから、仕事をやめて帰国してほしい」と言われ、「意思確認書」に署名するように求められました。

「意思確認書」の内容


会社が示した「意思確認書」

アンさんたちが署名するように言われた「意思確認書」の要点は次の通りです。

☑私たちは、感染防止のため会社と宿舎の往復以外は移動しないよう、会社から指導されていました。また、 感染したら、会社や地域全体に大きな影響が出ることを知っていました。それにもかかわらず、無断で徳島県外に出たり人ごみの多い場所に行ったりしました。

☑私は会社や地域に迷惑をかけないようにベトナムに帰ります。ただし、会社から「意思に反して帰国する必要はない」と説明を受けており、意思に反して帰国するものではありません。

抵抗できず退職願いを提出

提出した退職届

「意思確認書」には事実と異なる部分があったので、私たちは署名を拒否しました。休暇申請前には「県外に出てはいけない」との指示はありませんでした。また、感染対策をした上で約30㌔しか離れていない香川県丸亀市に1度行っただけなのに、解雇までされるのはあんまりだと思いました。

しかし、私たちはその後も会社から繰り返し退職を求められたため、2021年1月5日、抵抗しきれなくなって「退職願い」を書きました。

そして、住むところがなくなったので、1月13日、高速バスと新幹線を乗り継いで東京のベトナム人支援団体「日越ともいき支援会」を訪ねました。

新しい在留資格を申請

日越ともいき支援会で書類作成(左端がアンさん)

「日越ともいき支援会」は行き場のなくなったベトナム人を保護し、食料も提供しています。私たちもここに住ませてもらい、代表の吉水慈豊さん(通称・りえさん)に今後のことを相談しました。

その結果、私たちは雇用維持支援を目的とする「特定活動」という在留資格を申請することにしました。これは、新型コロナの影響で失業した技能実習生などのための在留資格で、特定技能外国人を目指すことが条件です。

この在留資格を取ると、最長1年間フルタイムで働けます。その間に希望職種の技能試験や日本語能力試験(JLPT)N4以上に合格すれば、「特定技能」の在留資格を申請することができます。

私は長野県のレストランの面接に合格したので、在留資格を「技能実習」から「特定活動」に変更するための申請書を4月1日に東京入管に出しました。その際、支援会が、私が事実上解雇された経緯を書いた書類を作成し入管に出してくれました。

external link 日越ともいき支援会

入管に提出した説明文


入管に提出した説明文

その後、入管は徳島の会社に私の退職の経緯を確認しました。すると、会社は私の退職理由について「特定技能になるために技能実習を途中でやめた」と説明したそうです。4月下旬、入管から私に「特定技能になるために技能実習をやめたというのは本当ですか? あなたが技能実習をやめた理由を書いて提出してください」と問い合わせがありました。

私は「会社と監理団体から、技能実習をやめて帰国しろとしつこく求められた」「特定技能になるために技能実習を途中でやめたという説明は間違いだ」などと書いた説明文を入管に提出しました。

レストランに就職

レストランの実技試験

すると、在留資格変更が無事に認められ、私は5月から軽井沢(長野県)のレストランで調理の手伝いをしています。今はアルバイトですが、7月にJLPT・N4を受け、近いうちに外食の技能試験も受けます。合格したら特定技能の在留資格を申請します。

ポイント:退職強制は違法

レストランの寮で同僚(左)や支援会スタッフ(右)と談笑〈2021年7月〉

会社が決めた禁止事項を破ったからといって、どのような場合でも解雇できるわけではありません。労働契約法は解雇について制限を設けており、技能実習など期間を定めた雇用契約については、「やむを得ない事由(理由)がある場合」でなければ解雇を行うことができないと定めています。よほどの理由がなければ、本人の意に反して技能実習をやめさせることはできません。

また、外出・外泊のルールについて、技能実習法は「技能実習生の外出その他の私生活の自由を不当に制限してはならない」と定めています。新型コロナで移動制限を呼びかけるのはよいとしても、県外への移動を一切禁止し、破ったからといって解雇まですることに合法性があるかどうかは疑問です。

意に反して技能実習をやめさせられそうになったら、必ず外国人技能実習機構(OTIT)に相談してください。それでもうまくいかない場合は、「日越ともいき支援会」や「外国人実習生支援」などの相談機関もあります。

external link OTITの母国語相談

external link 日越ともいき支援会

external link 外国人実習生支援(FB)